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左利きの宮廷道化師

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に発表する 2018-10-16 14:08:34 携帯電話から | 投稿者のコメントのみ表示 コメントボーナス |順にブラウズ |閲読モード
怪談の宴
ゲーム内の名前: よしし
ゲーム内のID: 10033257
サーバー: アジア
※過激な表現が含まれます。苦手な方はご遠慮ください。


宮廷道化師という言葉をご存知だろうか。
道化師の歴史は古く西洋において、モノマネや大食芸などで座を楽しませることで、裕福な家庭や酒場などで従者として扱われていた。
しかしある国では魔除けとして、小人症などの肉体的障害者、知恵遅れや奇形などを奴隷にもつ習慣があり、これらを愚者として犬同等のペット感覚で所有していた。
道化師が犬と描かれることが多いのは、そんな理由からであり、現代でこそ観衆を楽しませる大道芸人のようなイメージであるが、それは深く悲しみに満ちた従者なのである。

彼は幼少の頃、貧しい家庭に生まれ早くに父親を亡くし、その母はもう一人の乳飲み子を抱えながら、日当で小さな雑穀のパンが二つ買えるかどうかの賃金で宮廷に献上する織物を編んでいた。夜は女郎屋で宮廷の貴族を相手に働いていたが、それも成果報酬で羊乳を一瓶買えれば良い方だ。
彼は生まれつき背も小さく、右脚の膝から下が欠損しており、左手も薬指と小指がない。
貧しさに加え、不自由な身体に生まれ、スラム街のような街で暮らす少年は、日々子どもたちに虐められ傷を負い、次第に外に出ることもなくなった。
早朝に母が帰ると、少年の拳より小さく固いパンを貪り、欠けた瓶に入った100ccほどの羊乳を一気に飲み干す。母はそれを潤んだ目で見つめ、乳飲み子に乳を与えまた出掛けて行く。
ある晩、女郎屋で貴族の一人が母に言った。
「子は障害者か、宮廷で働かせてはどうか」
母は悩みに悩んだ末、ろくに食べる物も与えられない自分と子の不遇さと絶望的な将来を案じ、少年を貴族に託した。
「どうかお願いです。この子が辛い思いをしていたら、どうか私の元にお返しください」
言いながら母はわかっている、二度と子に会うことは出来ないだろうと。

宮廷は華やかだった。
母が編んでいた絢爛な織物に身を包む紳士淑女、毎夜のように繰り返される宴、彼が住んでいた街とは別世界だ。
彼は貴族に連れられ置屋のような建物に通されると、割れてくすんだ鏡の前に木箱を置かれ座らされた。
「目を閉じなさい」
老婆が近づき、僕の顔に何かを塗った。
5分ほど経っただろうか、促され恐る恐る目を開けると、顔一面を赤とは言えない黒に近いような血の色に塗られ、目の周りと唇だけ、これもまた白とは言えない黒に近い灰色に塗られていた。
「これで主人の前で踊りなさい。お前はまだ幼い、一言も喋らなくて良い」

僕は笑い者だった。
踊っているだけで笑われ、犬に追われて下壇しようものなら鞭で背中と尻を叩かれた。
大男が現れ、左足を掴まれ逆さにされる。次の瞬間主人が歩み寄り、顔に大量の酒を吹き掛けられる。
泣きながら部屋に戻ると、僕より少し年下であろう少女も同じ化粧をされていた。

それから三日に一度は宴に登壇し、宴のない日は宮廷の掃除、洗濯、時には一か月ぐらい畑仕事に出されることもあったが、一日の食事は母が与えてくれていたものより少しだけ大きいパンを一つと羊乳を一瓶。
僕の暮らしは何も変わらなかった。
同年の貴族の子が婚姻する頃には、僕は話術を教わっていた。
話術といっても主人をからかい嘲笑するような言葉を発するだけで、それに呼応して主人が僕で遊ぶ。周りで高笑う侍女の歓声が耳障りだが、僕の耳は鞭で叩かれたからか、いつからか大きな音でないと聴こえなくなっていた。

ある晩秋の夜、いつものように宴を終えて部屋に戻ると、いつも置屋ですれ違う紅顔の女の子が泣いていた。
「あな…くないの?」
聴き取れない。
「あなたは…悔しくないの!?」
耳元で大声を出され、ハッキリ聴こえた。
僕だって悔しい。
母に棄てられ、日夜遊んでばかりの貴族に弄ばれ、唯一の楽しみもない。
だからといって逃げ出したところで生きて行く術もない。
沸々と怒りが込み上げて来て、脳内で考えたことをもう一度リピートしながら同じことを言おうとしたとき、
「…てやるわ」
聴こえない。僕から顔を寄せた。
「主人を…殺してやるわ」
涙で化粧が取れた少女はなぜか可憐で、なんて恐ろしいことを言うんだとも思いながら、左手はそっと肩を抱いていた。
「大丈夫、僕が殺してあげる」
僕はなんて恐ろしいことを言うんだ。
いや、違う、この瞬間を待っていたんだ。
過去に経験したことのない気分の高揚と、心臓の高鳴りを覚えた。

それは簡単だった。
なぜって、僕には守るものなんてない。
帰りを待つ人もいない。
いつものように行われる宴の、いつものように行われる逆さ吊りの、主人が近づいたその時、僕は当たり前のようにポケットからナイフを取り出し、当たり前のように喉元に突き刺した。
宙が返る。
悲鳴が聞こえ、紅顔に鮮血が飛び散る。
そこからはあまり覚えていない。
軋む義足を引きずりながら無我夢中で走り、見覚えのあるスラム街の、見覚えのある小屋の前に立っていた。
「おかあ…さん」
小屋から出て来た中年の女性は痩せ細り、記憶の母の見る影もない。
「…たなの?あなたなの!?」

ううん、違うよ、僕は宮廷道化師だ。
僕は当たり前のように左手に持っていたナイフを突き立てた。

そう、僕は道化師だから。
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