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荘園領主は菓子だけをくれない

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指定のフロアにワープする
トピ主
投稿時間: 2018-10-19 19:16:23 携帯電話から | すべてのコメントを表示 コメントボーナス |逆順にブラウズ |閲読モード
怪談の宴
ゲーム内の名前: ずんだパフェ
ゲーム内のID: 8777570
サーバー: アジア
「何なのだ、これは」

いつもの如くハンターとサバイバーに招集がかけられ、戦いに挑む少しの緊張感と共にロビーに足を踏み入れた途端に間抜けな声が出てしまった。

それもそのはず、いつも薄暗く重苦しい雰囲気の漂っている荘園のロビーが、何故か見事に様変わりしているのだ。

壁には幾多の蝋燭がかけられ、長テーブルの上には色とりどりの菓子や料理が並んでいる。いつもひびの入った窓ガラスが嵌っている埃っぽい窓は、コウモリや異国の文字で飾り付けられ、イルミネーションできらきらと輝いていた。極め付きはそこらじゅうに置かれたオレンジ色のカボチャ。笑ったようなモチーフの顔が彫られており、中には蝋燭があるのか柔らかな光が漏れていた。

「Trick or Treat」
「は…?」

あまりの変わりように立ち尽くしていると、後ろからリッパーが声をかけてきた。

「お菓子をくれなきゃイタズラしてしまいますよ」
「悪戯?」

わけがわからない。
一体これはなんの催し物なのだろうか。困惑した表情を見てとったのかリッパーが説明をしてくれた。

「おや、ご存知ありませんか。今日はハロウィンと呼ばれる祭りの日なのですよ」
「ハロ、ウィン」

「先程のは『菓子かイタズラか』という意味の合言葉のようなものです。本来ならば子どもたちが大人にこれを尋ね歩き、菓子を貰うのです」

「そうか、理解した」
だが、お前は子どもではないだろう?

そうリッパーに問うとリッパーはからからと機嫌良く笑った。

「そう堅苦しいこと言わずに」
「さ、お菓子かイタズラが選んでくださいな」

「悪いが菓子の持ち合わせは無くてな」
どうぞ好きに悪戯してくれと両手を持ち上げて降参の意を示した。

「おやおや、こうもすんなり認められると些か…」

私が潔く降参したのが意外だったのか、再びリッパーは笑い声を上げた。

つられて私も顔が綻ぶ。しかし、視界の端に映り込む蝋燭の光が私を責めるようにちらちらと瞬くのを見えて、明るかった気分は萎むように消えてしまった。

そのまま揺れる蝋燭の光を眺めていれば、否が応でも己の片割れを見送った時の蝋燭の光を思い出してしまう。絶望の底で見たあの光と、楽しい催事に使われているこの光は全くの別物であるはずなのに。


「…何を思い出したのですか」

急に静かになった私に興を削がれてしまったのか、真面目な顔つきになったリッパーが再び声を発した。

「…この光景を見せてやりたかった、と思いまして」
「そうですか」

自分の口からこぼれた言葉が、知らず知らずの内にかつての己のものへと戻っているのにも気づかなかった。それに対してリッパーは何も言わなかったけれど、そのささやかな気遣いが嬉しかった。

「会いたいですか」
誰に言うでもなく、リッパーはぽつりと呟いた。

「勿論」
​───────会いたい

暫しの沈黙が流れ、再度リッパーが口を開いた。

「嗚呼、そう言えば先程のイタズラをまだしていませんでしたね」

「…は?」

「まあまあ、そう声を尖らせずに」

呆気に取られた私を宥めるような声と共に、周囲が霧がかかったように霞んでいく。同じく朧気になっていくリッパーに向かって傘を振るえば、まるで影であったかのように霧散してしまった。

周りが完全に濃霧に包まれたのと同時に、頭の中でリッパーの声が響く。

『ご安心ください。これは只のイタズラです。あなたには何の害もありません』

『ご存知ないでしょうけれど、ハロウィンとは死者や魔物の魂がこの世に還る日』

『私たち魔性の者にとって最も力が高まる日です』

『そして私はジャック・ザ・リッパー』

『霧夜に紛れて魂を喰らい、その数の多さから、幾多の貌を持つと語られた殺人鬼』

『貴方の半身を呼び起こす事は出来ないけれど、その写し身にならば容易くなれましょう』

『霧で作られた幻影なれど、宿る魂は本物です』

頭の中で響いていたリッパーの言葉が途切れた瞬間、靄が崩れて一つの人影を作り出す。

それは私の悔恨そのものであり、私の希望そのものであり、時を経た今でもなお焦がれていた姿。

「​………………笵無咎」
​───────​───────​─────​───────​────

持ち主の手から落ちた白い傘がからんと音を立てて転がった。
本人の体は糸の切れた人形のように力を失って、目の前の人物に支えられている。

やがて声とも音とも取れぬような響きが、いつも通りの薄暗く陰鬱なロビーの空気を揺らした。

「ナイチンゲール、いるかい」

ぴぃ、と鳴き声が聞こえ、何も無かったはずのところから滲み出るように一羽の小鳥が現れた。

「ああ、『本物のリッパー』を起こしてきてくれたんだね」

「リッパーの姿を借りるのは初めてだったけれど、これはこれでなかなか面白いものだったよ」

「さて、またもや仕事で悪いけど、私はこの子を部屋に運んでくるからこれを持ってついて来ておくれ」

これ、と彼が指し示したカボチャのランタンは見る見るうちに小さくなり、小鳥が運べる大きさにまで縮んでから止まった。
自分の運べる大きさになったのを確認すると、小鳥は床に降り、背中にランタンを乗せて舞い上がる。

「この子が目覚めてランタンの光を見たら、今の記憶は全て忘れるように暗示をかけておいたから」

そのまま無常を担いで歩み始めた主の背に向かって、小鳥は戸惑っているかのように小さく囀る。

「ん?」
「どうしてそんな暗示をかけたのか、かい」

彼は歩みを止めて振り返り、酷く妖しく、それでいて幼子のように無邪気な笑顔を浮かべた。

「言っただろう、これは只のイタズラだ」

それにね、と続ける。

「謝必安は最近のハンターの中でもかなり優秀でね」

「謝必安は范無咎に会うためだけにゲームに参加している。まだ、会わせてやるわけにはいかないのさ」

今度こそ振り返らずに歩み去る主の背を眺めていた小鳥はやがて飛び去った。

全てを見ていた傘だけが冷たい床に残される。さりとてそれは何も語らない。
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