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霧の悪戯

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トピ主
投稿時間: 2018-10-20 11:36:28 携帯電話から | 投稿者のコメントのみ表示 コメントボーナス |逆順にブラウズ |閲読モード
怪談の宴
ゲーム内の名前: krkrkrr
ゲーム内のID: 1889652
サーバー: アジア

⚠️ 注意 ⚠️

  このお話には、多少のネタバレと、多量のキャラ崩壊(二次創作要素)が含まれています。ご覧になる際は何卒ご注意下さい。

  元々4部だったものを繋げており、大変長編の作品になっております。話のつなぎ目等、お見苦しい点も多々ございますが、気になる方はどうか最後まで目を通してやってください\(^^)/

それではどうぞ!


ーーーーー



ーー 10月某日、酉の刻。
辺りはほの暗く、月の光が主張を強めてきた頃。

「「ハッピーハロウィーン!」なの!」

  街の少し外れにある一軒家に訪れたのは、いつもとはがらりと格好が変わった、エマ・ウッズとトレイシー・レズニック。
「ヘレナ!迎えに来たよ!!」
「今からみんなでとりっくおあとりーとなの!」
  そう、今日はハロウィンの日。街で開かれているハロウィンのお祭りに行こうと、エマとトレイシーは、約束していた友達のヘレナ・アダムスを家まで迎えに来ていた。
「2人ともわざわざありがとう!なんかいつもと雰囲気が違うけど…えっと、もしかして仮装とかしてる?」
  玄関で2人を歓迎した彼女は、産まれて間もなく視力を失った代わりに、聴力を始めとする他の感覚がずば抜けていた。友達の2人がいつもと違う格好をしていることぐらい、一“雰囲気”瞭然だった。
「流石ヘレナちゃんなの!」
「あたしは赤ずきんで、エマがカウガールの仮装をしてるんだよ!」
  そう言うと、2人は自分達の衣装をヘレナに触らせた。
「すごーい!…でも、私は何も用意してないや」
「大丈夫なの!わたしがヘレナちゃんの分も作ってきてあげたの!」
  エマは、持参した少し大きめの紙袋を差し出した。
「エマがね、ヘレナにはこれがいいって聞かなくて…」
  少し呆れ顔のトレイシーが、紙袋から取り出したあるものを、ヘレナの頭に被せた。それを、受け取ったヘレナ自身も確認する。
「ありがとうエマちゃん!えっと、これは帽子…かな?」
  念のため、と言わんばかりに確認をすると、エマが得意げな表情で応える。
「そうなの!!でっかいケーキの帽子なの!」
「け、ケーキの帽子…?」
「金ぴかなの!!!」
「金ぴかのケーキの帽子…」
「あはは…」
「とってもかわいいの!!」

……

  ヘレナ邸を後にして、お祭りのある街の公園へ足を進める3人。エマが先陣を切り、トレイシーがヘレナの手を引いて歩いていた。
「ところで、今日はもう2人に誘われるがままだったけど、どこに行く予定なの?」
  最後尾を行くヘレナは、今日は3人でお祭りに行こうとしか聞いていなかったが、「小さいカバンを持ってきて」と言われ、他にも行くところがあるのだろうと思った、ハロウィンだし。
「お祭りを少し回った後、美智子さんのとこに行こうって話になったのよ」
「美智子さんにもとりっくおあとりーとなの!」
  どうやら元芸者、美智子の家にお菓子を貰いに行くらしい。そんな他愛もない話をしながら、歩みを進める。
「そういえばこの前、やっとお父さんの機械人形が完成したのよ!」
  トレイシーは、事故で亡くなった親の影響で機械工学に精通していて、独自の機械人形の作成に勤しんでいた。そして、その技術を生かして父親に似たロボットを作り上げたらしい。
「すごいの!トレイシーちゃん!」
「ほんとに器用だよね、トレイシー!」
「えへへ、ありがとう」
  そう言うトレイシーは、自慢げな声色とは裏腹に、どこか物憂げな表情でもあった。
「エマの手先の器用さも、お父さん譲りなんじゃないの?」
「多分きっとそうなの!お父さん、今どこにいるのかなー…」
  エマの父親、レオ・ベイカー。彼は元織物工場の工場長をしていた。だが、とある一件以降、彼は娘の前から姿を消していたのだった。
「たまに会いたくなっちゃうけど、我慢するの!でも、今日はお菓子をくれなきゃ、いたずらなの!」
「あはは、あたしのお父さんはねー…」

ーーー

「着いたの!!月の河公園!!」
  昔懐かしい話は止まらず、歩き始めて数十分後、一行はハロウィンのお祭りが開催されている月の河公園に到着した。そこにはもう既に大勢の人が溢れ返り、その各々が仮装やパレードでお祭りを楽しんでいた。
「見て!あそこにジョーカーとヴィオレッタがいるわよ!」
「ほんとなの!凄い人集りなの!」
  公園の真ん中では、微笑みピエロとクモによるサーカスショーが行われていた。その不気味でもあり喜劇的でもある演目に、祭りに訪れた大勢の人が魅了されていた。すると、
「あっ、え…えまちゃん…っ!」
「げっ…」
  ふと、エマの名前を呼ぶ男性の声が聞こえた。…が、その声だけで何者かを判断したヘレナは、嫌な予感しかしなかった。
「あっ、ピアソンさんなの!こんばんは!」
  そんな彼女の不安にも気づかず、心優しい(少しおバカな)エマちゃんは、ふつーに接する。
「えまちゃん、今日は楽しんでる?お友達と来てたんだね!それはカウボーイの仮装かな?とってもかわいいよ!」
  彼の名はクリーチャー・ピアソン。ここいらでは“あること”で少々有名なのだが…
「えへへ、ありがとうなのピアソンさん!」
  照れるエマ、不安しかないトレイシーとヘレナ。
「ところでえまちゃん、ぼ、僕とも一緒にお祭りを回ってみない?楽しいところいっぱい知ってるよ!」
「ほんと!?みんなで回ってみたいの!!」
「いや、ぼくはえまちゃんと…」
「ちょっと、エマ!!」
  このままではまずいと思い、慌てて仲介に入ったトレイシー。と、その時。

ーーシュルルルルッ!!
「あ…? あ、ああぁあぁあぁ…!!!?」

  空を切る音と共に、ピアソンが宙に舞う。その姿は、クモが吐いた白い糸でぐるぐる巻きになり、サーカスのど真ん中にドシンと落ちた。
「さぁ、皆さん!今から行われるのは、わたくし微笑みピエロとクモによる、こちらの糸人形を使ったナイフショーでございます!!」
  ジョーカーの一言に、会場はワッと歓声を上げた。
「ありがとー!ヴィオレッタさん!ジョーカーさーん!!」
「いいのよ、気をつけて行ってらっしゃいね!」
  ヴィオレッタとトレイシーは短く言葉を交わし、一行はサーカスを後にした。
「あ、え…!?え、えまちゃぁぁん…!」
  ぐるぐる巻きにされたピアソンは、去りゆくカウガールの後ろ姿を、サーカスの真ん中から名残惜しそうに見つめる。すると、
「おうクソロリコン野郎、これから俺らと楽しいことしようぜ…?」
  ピアソンが恐る恐る顔を上げると、そこには不気味な笑顔でナイフをこしらえた、嘲笑いピエロの顔があった。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ〜…」

「エマちゃん、そろそろピアソンさんに気をつけることを学ばないと…」
「お店もいっぱいなの!」
「ヘレナの話を聞きなさい…」
  慈善家を生贄に捧げた3人は、お祭りに並ぶ屋台を回っていた。
「全く…  ?くんくん、なんだかいい匂いがするわね!ウィラさんのお店があるの?」
  風に乗って香るその匂いに、ヘレナはそう言った。
「そうよ。いらっしゃい、貴女達。」
「ウィラさん、こんばんは!」
「こんばんはなの!」
  そこには調香師であるウィラ・ナイエルの出している香水のお店があった。シャボンやローズ、金木犀など、さまざまな種類の香水が置かれていた。
「貴女達も年頃の女の子なんだから、いろいろ見ていきなさいな。」
「いいかも知れないの!」
「それぞれ別の香水つければ、ヘレナも匂いだけであたし達を判別できるかもね!」
「あはは、そんなに気を使わなくていいよ!」

  …それから暫く、3人はウィラのお店を見て回り、それぞれ好みの香水を購入した。
「ウィラさん、ありがとなのー!」
「またいらっしゃいね。」
  香水店を後にした一行は、次の屋台へと向かう。
「…あっ、見て!あれジョセフさんじゃない?」
  トレイシーが指をさしたのは、1人の男性が出している写真のお店だった。
「こんばんはなの、ジョセフさん!」
「やぁ、こんばんは。記念に1枚撮っていかないかい?せっかくかわいい服を着てることだしね。」
  そう言って、ジョセフは3人を歓迎した。
「いいわね、寄って行きましょう!」
  彼の名はジョセフ。ここいらで一番紳士であると評判の彼は、撮影師をしている。
「いいなー、私も写真が楽しめたらなー…」
  賛成はしたものの、少し寂しそうな表情のヘレナ。それもそのはず、目が見えない彼女は、点字では表せない写真はあまり(というか全く)楽しめないのである。
「心配いらないよ、ヘレナさん。私の技術を持ってすれば、貴女でも楽しめる写真を撮ってあげられるよ。」
「それは凄いの!それならヘレナちゃんも大丈夫なの!」
「どんな技術なのか全然分かんないけど…、でも、それならちょっと楽しみかも…!」
  期待を胸に、3人は撮影部屋に移動しようとした…その時。

「…ん? …霧…?」
いち早く異変を察知したのは、ジョセフだった。だが、彼がそれに気づくや否や、その霧は瞬く間に濃ゆくなっていき、1m先を見るのがやっとな程になってしまった。そして…

「き、切り裂きジャックが来るぞぉぉぉぉ!!」

  ーーどこからともなく聞こえてきたその一言、誰が言ったのか、どこから聞こえてきたのか、だが、ただそれだけで、今起こっていること、そしてこれから起こること、全てを物語っていた。
「逃げろぉぉぉぉ!!!」
「霧から出るんだ…、早く!!!」
  その瞬間、静まり返っていた公園に、救いと助けを求める叫喚と、数千はあるであろう足音がけたたましく響き渡る。
  …切り裂きジャック、もといリッパー。夜、濃霧に紛れて殺人を繰り返してきたと言われている。そんなリッパーの象徴とも言える霧が、突然一帯に立ち込めたのだ。
「エマ!!ヘレナ!!!いるんでしょ、手を出して!!」
  トレイシーのその声に反応して、2人はすぐさまその方向へと手を伸ばす、全力で。
「よし、あたし達も逃げるよ!!!」
  差し出された2つのか弱い手をしっかりと握りしめ、トレイシーは駆け出した。行く宛もない、どこに向かっているのかも分からない、ただここは危険だ。ヘレナは目が見えないし、エマもきっと状況を理解できていない。あたしが2人を守らなきゃ。
「だめだ、君たちだけで行ってはいけない!!子供だけでは危険だ!!!」
  ジョセフが叫ぶ。だが、プレッシャーなのか、彼女も相当慌てているのか。いや、慌てていたに違いない。彼の声はトレイシーには届かず、虚しく霧中に溶けていくのであった…

ーーー

  3人は闇雲に走り続けた。ついさっきまで公園でお祭りを楽しんでいたかと思えば、やがて辺りは薄暗い深い森へと変わっていった。それに気づいたのは、少しだけ、霧が薄くなってからのこと。そこで漸く3人は足を止めた。
「はぁ、はぁ… ここ、どこだろう…」
「森…? はぁ… 草木の臭いが、するけど…」
  3人は呼吸を整えつつ、今、自分たちが置かれている状況を、場所を把握する。
「なんだか… ちょっと遠いところまで、はぁ… 来ちゃった気がするの… はぁ…」
「でもまだ、霧はかかってるみたいね…」
  その霧が切り裂きジャックによるものなのか、はたまた深い森によるものなのか、彼女らには知る由もなかったが、分かることが1つだけ、それは…

「迷子、だよね…」

  ヘレナのその一言に、2人は何も言えなかった。
「ここ、どこなんだろう…」
「とりあえず、広い場所に出ないと…」
  2人があくせくしている中、エマはじっと一点をみつめていた。
「…エマ? どうしたの?」
「あそこに誰かいるの」
  エマの一言にギョッとして、身構える。…が、その姿が徐々に現れると共に、3人は少し安堵した。
「ベインさんなの!」
「こんな山奥でおなご3人、何をしている?」
  霧の中から現れたのは、鹿の頭を被った男、ベイン。彼はここら一帯の山守をしている。
「実は……」
  トレイシーとヘレナが、さっき起きた出来事を端的に説明した。
「なるほどな。逃げて来たのはいいが、ただ…」
  話を聞いて状況を理解したベインだったが、その表情は曇ったままだった。そして、
「とりあえずこの森の出口までは案内しよう、残念ながら、ここはここで危険なんだ。」
  そう言うと、彼は3人をそそくさと案内しつつ、話を始めた。
「実はな、ここいらで最近、その姿を見たら魂を吸われてしまうと言う、恐ろしい人物の目撃情報が多発していてな。俺も見回りを強化していたところだったんだ。」
「そうだったの…」
「その人物って…」
  ベインが答えようとした時、ヘレナがあることに気づいた。
「…ねぇ、なんか、水の臭いがしない?…こう、霧とは違う… なんというか、水の流れる音も…」

ーー刹那。

「伏せろ!!!!」
  ベインの掛け声と同じか、3人が屈むのと同時に、彼女らの頭上をもの凄い勢いで何かが通り過ぎた。
「なっ、何なの!? 今の…」
「か、傘…?」
  2人の目線の先には、先ほど頭上を通ったものであろう、白い傘がひとりでにくるくると回っていた。そして、その下に生まれた水溜りから、真っ白な服を着た男が、まるで濁流から這い出るかのように現れた。その光景はとても禍々しく、しかしどこか神秘的で、恐怖と感動を同時に感じる程に、不思議なものだった。
「ど、どうなってるの…」
「何…!? 何がどうなってるの!?」
  呆気にとられるトレイシーと、全く状況が把握できずに狼狽するヘレナ。そして、エマはーー
「……。」
「ア、アァァ…」
  呻き声を発しながら、“そいつ”はエマ目掛けて傘を突き出す。
「危ないっ!!!」
  トレイシーが叫ぶのと同時に、ベインが自前のチェーンクロウで傘を弾き返す。
「説明している暇はない!!3人共、早く逃げろ!!!」
ベインの声でハッと我に帰った3人は、言われるがまま、走り出す。
「アァ、ァ…」
  白い“そいつ”は、逃げる3人の方へ手を伸ばす。すると、その体は宙に浮き、緑色の光を発しながら瞬く間に距離を詰めた。
「やばいっ、このままじゃっ…!」
「ヘレナちゃん…っ!!」
  緑色の閃光を放つその手が、ヘレナの肩に触れようか、その時。
「そうはさせんっ!!!」
  ベインのチェーンが“そいつ”の首に巻きつき、動きが止まった。
「ベインさん!!!」
「よく聞け!!ここを真っ直ぐ行くと俺の小屋がある!そいつを見つけたらドアのある方角へ進め!!!そうしたらこの森から出られる!!いいか!足を止めるなよ!!走り抜けろ!!」
「「「はいっ!!」」」
  1度だけ振り返り、3人は全力でその場を走り去る。そして、そこに残ったのはしがない山守と、得体の知れぬ傘の男。
「さぁ、彼女らのあとは追わせないぞ。貴様の目的は何だ」
  ベインが尋ねる、と…
「「ジャマヲスルナ…」」
  先程まで白かったその体が、半身から徐々に黒く染まっていく。すると、辺りにはまるで泥水をひと雫垂らしたような青黒い波紋が広がり、瞬く間に山守を包み込んだ。
「貴様、まさか…」

ーーリーン……

…はぁっ、はぁっ
  3人はあれから、ベインに言われた通りに進んだ。まず小屋を見つけ、ドアのある方向へ。薄い霧の中でも分かる、少しだけ整地された道を進んだ。それから小さな隧道を抜けると、漸く開けた場所に出た。すると、
「はぁ、やっと…森を、抜けたの…はぁ…」
「え、まって…また、水の音が、はぁ…」
  トレイシーには、先ほどの傘男のあの音が、トラウマのように蘇っていた。
「…いや、待って… この音と匂いは、違う…」
  ヘレナがそう言うと、確かに、聞き慣れた匂いと音が、はっきりと感じ取れた。
「「海…??」」
  依然、薄い霧の中にある眼前には、ぼやけた水平線と、渚で音を立てる波、それから…
「船が泊まってるの!」
  エマの視線の先には、波打つ浜辺に一隻の大きな木造船が、漂流物と共に打ち上げられていた…


ーーとりあえずあそこで少し休憩するの!
  エマの一言で、3人は少しの間難破船の穴の空いた船体に腰かけた。
「もう、さっきのは一体何だったのよ…」
  状況を飲み込みきれないトレイシーが、うな垂れる。
「私も、あんなに走ったの、初めてかも…」
「……」
「…エマ?どうしたの?」
「エマちゃん?」
  トレイシーとヘレナが呼吸を整えながら話している中、エマだけはずっと黙って、何かを考えているようだった。
「…あっ、ごめんね、何でもないの!ただ…」
「「ただ…?」」
「あの傘の男の人、なんか悲しそうだったの…」
「エマ…?」
「あのね、なんかねエマがね、お父さんを探してる時に感じる、なんか、こう、寂しい感じっていうか、悲しい感じっていうかー…」
「……」
「うーん…なんか、よくわかんないの!」
「そっかぁ…」
  何となしにだが、エマの言いたいことを察した2人。それから少し、静かな時間を過ごした。
「…よしっ、そろそろ行こっか!」
  トレイシーが立ち上がると、2人もそれに続いた。
「トレイシーちゃん、ここからの道わかる?」
  おしりをはたきながら、ヘレナが尋ねる。
「うーん、とりあえず浜を辿れば、どこか分かる場所に出れ…」
「あっ!ヒトデさんなの!」
  突然そう言って走り出したカウガールは、よくもまぁ霧の中から見つけ出したヒトデ目掛けて一直線。
「あっ、ちょエマー!」
「待って待って、砂浜はちょっと怖いよぅ…っ!」
  仕方なしに、トレイシーはエマを追う。ヘレナも、白杖を砂まみれにさせながら、砂上の足音を頼りにそれに続く。
「ヒトデさんなの、かわいいの!」
「エマ、あのねぇ…」
「タコさんもいるのー!」
  聞こえていないのか、はしゃぎ倒すカウガール。
「エマちゃん!そろそろ…」
「…えちょっとまって!!」
  トレイシーが突然大声を出し、ヘレナがびくっと反応した。
「ど、どうしたの、トレイシーちゃん?」
「…タコ? こんなところに…?」
  目線の先では、タコの足と思しき物体が、砂の中から顔をのぞかせている。
「砂の中から足だけ…」

  …ズズズ

「それに…」

…ズズズズ

「なんか、ちょっと…」

…ズズズズズズズッッ!!

「とっても大きいのー!!」
「走ってぇぇぇえ!!逃げてぇぇぇ!!!」
  3本の触手が砂から飛び出すより少し先に、3人は走り出した。それの大きさは、彼女たちの2、3倍はあるであろう程。
「なんなの…!?」
「あっ、あれは…っ!まさか…っ!!」
  砂に足をとられながらも、3人は慌てて触手から距離をとろうとする。が、しかし…
「うぁ…っ!!」
「あ! ヘレナちゃん!!」
  砂浜に埋もれていた流木に、ヘレナが躓いて派手に転んでしまった。…元より彼女は、誰の導きもなかった上に、砂上が得意ではなかったのだ。そしてほぼ反射的に、エマが倒れているヘレナの元へと駆け寄る。
「エマ!!危ないって!!触手が…っ!!!」
  言いかけたトレイシーだったが、目の前の光景に言葉を失った。

「魂を…」

  3人の眼前に、そいつの“本体”は遂に姿を現した。数多の蠢く触手を一面に揺らめかせ。
「黄衣の…使者…」
  噂には聞いていたトレイシーだったが、いざ対峙してみると、その恐々たるオーラと、その禍々しい全貌に、全く脚が動かなかった。
  辺りの景色を一変させてしまう程の、幾重にも重なる触手。その黒光りする、質量のある炎のような物が、より一層の恐怖を掻き立てている。そしてその中心に佇む、「王」の名をほしいままにして来たかの如き怪物、ハスター。彼は太陽が沈む頃、人の魂を求めて湖より蘇ると言われている。
(今度こそ、本当にダメかも知れない…)
  誰もがそう思った。実際、3人共その恐怖から足が竦んで動けないのだ。
ーーと、その時。

「ーーはぁぁぁあっ!!」
ッッバァァァン!!!

「ぐああぁぁぁぁぁぁ…!!!?」
  突然、女性の叫び声と同時に、大きな爆発音がこだました。その閃光はハスターに直撃し、彼は大きく仰け反った。
「君たち、大丈夫かい!?」
「怪我はない!?」
  どこから現れたのか、2人の男女が3人の元へと駆けつける。
「「マーサさん!」」
「ナワーブさんなの!」
  初手、ハスターに信号銃を放った女性は、マーサ・ベハムフィール。元空軍。そしてもう1人の男性が、ナワーブ・サベダー。こちらは元傭兵。
「お2人とも、どうしてここに…!?」
  エマと共にナワーブに担がれ、ハスターの側から離れたヘレナが尋ねる。
「僕らは、ここの湖景村と周辺一帯の警備をしているんだ。2人とも軍人の成り下がりだから、このぐらいしか役に立てなくてね。それに、今回のリッパーの件もあって、警戒を強めてたとこだったんだ。」
「そしたら運良く、あなた達がハスターに襲われているところに出くわしたってわけ。たまたま、ね」
  そう言うと、マーサはクスッと笑ってウインクした。
「ありがとうございます、助かりました…」
「今日はもう、いろんなものに追っかけ回されてばっかりなの!」
「砂浜怖いよぅ…」
  3人は、もうこりごりと言わんばかりに苦笑する。
「さぁ、でもゆっくりしている時間はないよ。ハスターはまだ目の前にいるんだ!」
  ナワーブのその言葉で、3人のほつれかけていた緊張の糸が、再びピンと張った。そう、例えマーサが信号銃を命中させたところで、ハスターが湖へ帰って行くわけではないのだ。
「おのれ貴様ら、邪魔ばかりしおって…」
  体制を立て直したハスターの周りでは、活力を取り戻した触手達が再び蠢いていた。
「挨拶が遅れたな、ハスター。でも、今度はあの時のようにはいかないよ。」
  ナワーブはそう言って、鋼鉄でできた肘当てをカンカンと叩いた。まるで目の前の獲物を挑発するかのように。
「さ、あとは私達に任せて、あなた達は早くお逃げなさい。ここから西北西に進むと、小さなボロ小屋とトウモロコシ畑があるわ。そこを真っ直ぐ通り抜けたらこの村から出られるわ。」
  マーサは再び信号銃を構える。
「わかったの!ありがとうなの、2人とも!」
「よしっ、じゃあ行こう!ヘレナ、さっきはごめんね!はいっ」
  トレイシーはヘレナの手をしっかりと握った。
「うんっ、ありがとう!」
  ヘレナも、その手をしっかりと握り返す。
「じゃあ、2人とも、行くよ!」
  3人はまた走り出した。あの2人なら大丈夫、その確信があったのか、今度は振り返ることはなかった。
「逃がさんぞ、小娘ども…」
  ハスターが触手の一本を振りかぶろうとした時、しかしそれは呆気なく砂上にポトリと落ちた。その前には、ナワーブが小刀を構えている。
「逃がさないのはお前の方だぞ、覚悟しろ。」
  完全にハスターのホームであろうこの砂浜、しかし2人はそれを全く気にしていないような動きを見せ、王を翻弄する。
「さぁ、ちゃっちゃとやっちゃいましょうか、兵隊さん。」
「それはなんだか皮肉に聞こえるな、軍人さん。」
ふざけて会話をしているような2人だが、その目は完全に殺気立ち、標的を捉える。
「小童どもが…  死ね…」
  刹那、無数の触手が一斉に降りかかってきた。

「「…行くぞっ!!!」」


ーー3人は走った。
  公園を出て、人里離れた森を彷徨い、漁村を抜け…
  どれほど走ったのだろう、どれほどの距離を移動したのだろう。そんなことを考えるまでもなく、もうくたくたに疲れ、足は棒のようになっていた。
「もう、限界なの…」
  遂に体力尽きた一行は、古びた教会に辿り着き、ほこりの被った椅子の、なるべく綺麗そうなところに腰を下ろした。
  それから暫く、流石の3人も言葉も交わさずに息を整えることに集中していた。

……霧はまだ濃いままだ。

「ほんとに、今日はとんだハロウィンだわ…」
  ポツリと漏らしたのは、トレイシー。いろんな人の助けを得ながらも、何とか2人の先頭に立って導いてきていた。
「ははは、いろんな意味で思い出になったかもね…」
  ヘレナは視力こそないものの、今日経験してきたことはみんなと変わらない。ただ、森の中で飛んできた傘が大きい帽子を掠めたこと、砂浜で1人走ってすっ転んだこと、それはある意味で、彼女にしか経験できなかったことではある。
「でも、やっと見覚えのあるところに来れたの。なんかここ、来たことあるような気がするの!」
  何を考えているのか分からないことがあるエマだが、彼女は彼女なりにしっかり考えを持っている。それが分かっているからこそ、3人はいつも一緒にいる。そして信頼し合っている。誰かが欠けていたら、もうとっくに心は折れていたかも知れない。
「そういえばヘレナ、さっき転んだ時、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫! …でもちょっと痛いかも。」
「おうちに帰ったら、エミリーさんに診てもらうの!」
「ありがとうエマちゃん。でもエミリーさんのとこはまた違うから、それはいいかな…」
「あたしも帰ったら、お父さんの人形の微調整しなきゃなー」
「でもまだとりっくおあとりーとしてないの!」
  徐々に体力も回復して、他愛もない会話を弾ませる3人。まるでいつもの日常のように、笑みをこぼす。
  ただ、違うところが1つ…
「…霧、なかなか晴れないねー。」
  トレイシーの発言に、「そうだねー」と軽い返事をする。…何か大事なことを忘れているような気がする。
  と、その時。
「…えっ!?何、なに!?」
  突然、濃い霧が立ち込め、先程まで見えていた世界が一瞬で真っ白に染まった。
「なにも見えないの!!」
「どうしたの!?また霧が濃くなったの!?」
  急な事態に、動揺を隠せない3人。ついさっきまで隣にいた、大切な友達の姿が確認できない。手探りで探すも、虚しく空を泳ぐだけ。
「エマ!!ヘレナ!!どこ!!?」
  必死で声を荒げるトレイシー。エマが見当たらない、ヘレナもいない。もう、あの手を離さないと決めていたのに…
「トレイシーちゃん!!!」
  ヘレナの声はすぐに返ってきた。トレイシーとヘレナは、お互いの声のする方へ、急いで、しかし慎重に歩みを進める。あの匂いだ、ウィラさんのお店で買った、あの香水の匂いもする。
  …そして遂にはその体に触れることができた。
「あぁっ…!よかった、ヘレナ…っ!!」
  泣き出しそうな声で、親友に抱きつく。
「トレイシーちゃんっ! …でも、エマちゃんは!!?」
  …エマがいない、そういえばさっきから返事もない。
「エマ!!! エマ!!!!!」
「エマちゃん!! 返事して!!」
  2人は固く手を握り、椅子の背もたれと思しきところを伝いながら、エマを探す。
  …いない、返事がない、なにも見えない、嫌だ、怖い、さっきまで隣にいたのに、なんで、お願い…
「エマってば!!!! どこなの!!!?」
「お願い返事して!!エマちゃん!!!」
  どんなに叫ぶも、返ってくるものは何もない。一面の霧に、自分たちの声が、友達が、吸い込まれていくように。
「もう嫌…… やめて、なんでこうなるのよ………」
  絶望を感じたトレイシーが、崩れ落ちる。
  と、
「あっ…」
  自分の手のひらすら見えない程だった霧が、また薄くなっていく。さっきまで座っていた椅子が、徐々に姿を現した。どうやら、自分たちは思ったよりも移動はしていなかったようだ。
  そして、薄くなった霧の中、遂にもう1人の親友の姿が現れた。 …が、2人は喜ぶことができなかった。むしろ、今までの全てを上回る程の絶望を覚えた。何故なら…

「……リッパー…………」

  地べたにぺたんと、腰が抜けたように座り込むエマの目の前には、あの、殺人鬼が。
  霧の中からにじみ出るように現れた、すらっとしたその容姿は、まるで閑静な喫茶店の常連のような、紳士的な格好で、しかしその左手には、一振りで人間をバラバラにできるのではないか、鋭く不気味に光る鉤爪。
「エマ、ちゃん…」
  見えていないにも関わらず、この状況を把握できるほどの、漂う恐怖。そしてそれが見えている者の、大切な人が、いつ殺されてもおかしくない状況を目の当たりにする、恐怖。
  リッパーはじっと、座り込むエマを見下ろす。
  その先の少女は何を思うか、殺人鬼を目の前に、微動だにしない。

  …霧はまだ、晴れていない。



「とりっくおあとりーとなの、ジャックさん。」





ーー

  コンコン。
  ジャックオランタンのほのかな灯火も、そろそろ消えそうかという折、ふいに自宅のドアをノックする音がした。時計はもう、亥の刻を回ろうとしている。
「あら、誰かしら、こんな時間に…」
  居間で暖をとっていた美智子は、膝掛けを椅子に置き、扉へと足を運ぶ。すると、

「「「トリックオアトリート!!」」なの!!」

  元気な声が3つ、小さな住宅に響き渡る。
「あらあら、こんばんは。随分遅かったわね、どうしたの?それに、えっと…大丈夫?」
  玄関には、可愛らしいハロウィンの仮装をした少女が3人。しかしその姿はボロボロの砂まみれで、美智子には一体ここに来るまでに何があったのか、さっぱりだった。
  3人は顔を見合わせて、えへへと苦笑いした。
「実はここに来るまでに、いろいろありまして…」
「それはもう、大変で…」
「お菓子くれなきゃいたずらなの!!」
  あらあらまぁまぁと、とりあえず3人にタオルを渡した。汚れを落としている間に、少女らは楽しそうに今日の出来事を美智子に話した。
  公園でお祭りを楽しんだこと、そこから霧が出て、森に逃げ込んだこと。そこで傘に襲われて、今度は海に行ったこと。タコの王に出くわしたこと。途中、いろんな人に助けられたこと。そして紅の教会のことーー
  矢継ぎ早に物語を語る3人の話を、美智子は黙って聞いていた。我が子を見守るような、暖かな目で。
「美智子さん、タオルありがとうなの!」
「どういたしまして。…それにしても、今日は本当に大変だったのねぇ。」
「そうなんですよ、もう、ほんとに…」
「私なんて、このおっきな帽子のせいで、一回死ぬんじゃないかと思いました!!」
「帽子のせいにするなんてひどいの!!金ぴかのケーキ、かわいいの!!」
  そんな、家族の団らんのような時間を過ごし、時計はもう次の月へと進もうとしていた。
「今日はもう遅いから、お帰りなさい。あと、お菓子の件だけど、ごめんなさいね。まさかこんなに遅い時間に来るとは思わなくて、全部配ってしまったの。」
  美智子が促すと、3人は素直に玄関へと向かう。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ!頭にケーキ乗ってますから!」
「それよりも、タオルと、いろいろ話を聞いてくれてありがとうございました!」
「美智子さんには、あとでいたずらなの…!」
  エマは頰をぷくーっと膨らませて残念そうにしたが、トレイシーに小突かれてしぶしぶ諦めた様子。
「気をつけて帰るのよ、またいらっしゃいね!」
「「はーい、おやすみなさい!」」
「またねなの!」
  そうして、3人は美智子の家を後にした。

ーー

「じゃあ、あたしはヘレナを送って行くから!」
  あれから歩いて十数分、丁字路に差し掛かったトレイシーが言った。
「うん!今日はありがとうなの!また遊ぶの!」
「ばいばいエマちゃん!また遊ぼうね!」
「「「またねー!」」なの!」
  トレイシーとヘレナは、エマとは反対方向に進んで行き、帰路に着く。その手は、固く結ばれていた。
「んーっ、帰るのーっ」
  小さく伸びをして、エマも家路に着く。

  …結局あの時、ジャックはエマに何も危害を加えようとはしなかった。むしろ、座り込んだ少女をすっと持ち上げ、教会の出口へと運んでいったのだ。
「今日はもう遅い。早く帰りなさい、自分のいるべき所へ…」
  そう言われたの、とエマは言っていたが、にわかに信じ難かった2人は、少し距離を離しつつその後をついて行くことしかできなかった。
  彼はなぜ現れたのか、なぜ何もせずに、殺人鬼の名にそぐわぬ行動をとったのか、その答えは誰も知らない。
  ただ、3人の少女が教会から出る頃には、あんなに濃かった霧が嘘のように晴れていた。

「ただいまなのーっ」
  エマの声が、誰もいない小さな家に響く。
  とても不可思議で、とても怖くて、でもとても面白い体験をした。ただそんなエマには、1つだけ、心残りがあった。
「お菓子、誰からももらえなかったのー…」
  そう、今日はハロウィンの日。街で開かれていたお祭りも中途半端に終わり、せっかく持って行った小さなバッグも、走っている最中にどこかへ行ってしまった。
  部屋に飾ってあるお手製のかぼちゃランタンは、まだ明かりを保っている。その明かりを頼りに、部屋の電気を点けた。すると、
「…あれ!? お菓子が置いてあるのー!!」
  テーブルの上に置かれた小さなかご。その中には溢れんばかりのお菓子と、一通の手紙が入っていた。
「…appy Hallowe…
    ………
                 Dear my ……」
  殴り書きなのか、文字が潰れている上に、おバカなエマちゃんが読めたのはこれぐらい。ただ、彼女には何となくわかっていた。
「きっとパパなの!パパがお菓子を持ってきてくれたの!!」
  これでパパにいたずらしなくてもいいの!と、大はしゃぎをするエマ。明日、2人にも分けてあげよう…

  かぼちゃの灯りがふっと消え、お祭りの日が完全に幕を閉じた子の正刻。
  開いていた窓と、庭に置かれたパペットに気がつくのは、いつになることやら…


ーー END ーー
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