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ハロウィンナイト・サーカス・アゲイン

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新手上路

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指定のフロアにワープする
トピ主
投稿時間: 2018-10-25 18:33:52 携帯電話から | 投稿者のコメントのみ表示 コメントボーナス |逆順にブラウズ |閲読モード
怪談の宴
ゲーム内の名前: MISHEIL
ゲーム内のID: 4696207
サーバー: アジア

あちらこちらの破けた衣服から異形の身を覗かせて、タコのような触手をずるずると引きずる。ハスターは困ったように首をひねった。愉快な音楽がメリーゴーランドから漏れ、夕焼けの公園を彩っている。大方試合は片付いたものの、彼はすっかり道に迷ってしまっていた。
どうしたものか、という低いつぶやきはぽつりと地に落ちる。解読機の揺れもなく、近くに気配を感じることもなかった。地に残された触手の1本を倒した刹那、全く同じ方角から耳障りな音が届いた。
幸いなことに、道がわからない、というのは他の者も同じであったようである。

さて、この王はしばしば気まぐれを起こすことがあった。散々追い回して蹂躙した最後の一人──他はとうに荘園へと送り返した後だ──を担ぎあげ、駆け回ったステージをゆったりと散策するのである。
今回同伴を許されたのは、フードを目深にかぶり奇妙に曲がったナイフを携えた青年であった。特に抵抗をすることもなく、かといって意識を失っているわけでもなく。風船の紐を結わえた赤い手をしっかりと掴んで、あたりをきょろきょろと見回している。
この奇妙な散歩は今に始まったことでも、また彼自身付き合うのも初めてでもない。ここが最近行けるようになったばかりの大きな公園で、倒れ込んだのちそっと抱えあげられたのならば、この王が所望するのはただ一つ、というわけだ。
ふと王の目をひいたのは、大きな布に飾られた色とりどりのポスターであった。片目に傷のある凶悪な、彼らにはよく見知った顔が入り口の上に飾られている。
「随分大きなテントだな」
「さぁかす、と書かれているな。はて、さぁかすというのは……ヒトの娯楽を提供する一団、であったか」
「本で読んだことがある。ジョーカーみたいなピエロが出てくるんだ」
とはいえ、どちらもこの催し物を実際に見たことはなかった。湖を拠点とするハスターと、山で育ち戦争に身を投じたナワーブである。本や人づてに聞いて知った情報をあれこれと繋ぎ合わせても、サーカスというものが一体どんなものなのか、想像するにも至らなかった。
「でも、とても面白いのは確かだ。軍の人が子供と観に行ったって話をしてた」
「そうか。まあ、荘園にいる以上は叶わぬだろうが……」
一度くらいは、観てみたい。
ぽつりとこぼした言葉は同じで、王と傭兵は笑みを交わした。


数日経った夜のことだ。
夕食を済ませたナワーブが自室に戻ったとき、白い何かが目に留まった。扉の下に挟まった一枚の封筒。誰かと文通をしているわけでもないし、荘園の主からの連絡とも違う。訝しげに拾い上げて封を切れば、色鮮やかなポスターと二枚のチケットが折りたたまれて入っていた。
『ハロウィンの夜、一夜限りの大復活』
『サーカスへの招待状。月の河公園内』
中央にはでかでかと燃えかけの案山子。丸い壇上、スポットライトに照らされて、紳士のようにお辞儀をしている。
ジョーカー。あの会場を飾っている男。
あの衣装は紛れもなく彼のものだ。荘園の入り口で拾ったと自慢していたのは記憶に新しい。
荘園の主による新しい催しか、それとも誰かの考えたお祭りなのか。
どちらにしても、これは。
「────ハスター!!」
フードが風で外れ、長く結わえた髪が露わになるのも構わずに、傭兵の青年は一目散に駆け出した。


いくつも並べられたジャック・オ・ランタン。その中に一つ、見慣れた細く白い面の被せられたものがいて、ナワーブはくっくっと声を殺して笑った。上を見上げれば、フェルトでできた蝙蝠が蜘蛛の巣に繋げられぱたぱたと羽ばたいている。
壇上は二つの控えめなスポットライトで照らされ、薄暗くも開幕の兆しを感じさせる。
「誰もいないんだな」
「まあ、貸切なのだろう」
あの夜ハスターの部屋へ駆け込み、勢いもそのままにチラシとチケットを突きつけた。読書に耽っていた神は驚きでいくつもある目をうごめかせ、それでは、とこの夜の約束をしたのだ。
他に同じものが届かなかったか、ナワーブが皆にいくらきいてまわっても、首を縦に振るものはいなかった。
なら、この催しは一体何なのか。
ひねった首は突如轟いたドラムロールで、大きく90度ほど戻されることとなった。
「なんだっ!?」
「皆様、ようこそお越しくださいました! あの名サーカスが、ハロウィンの夜、一夜限りの大復活を果たします!」
覚えのある高い声が、かき消されぬよう負けじと張り上げて開場を告げる。
「まずは皆様ご存知、我が座一の人気者、ジョーカーの登場です!」
カッとライトが白くステージを染めあげる。目のくらんだ青年がぱちぱちと目を瞬く一瞬の間に、いつのまにか大きな道化師が腕を広げて立っていた。
幾度も聞いたダミ声の笑いが会場中に響き渡る。うっかり板との距離を見誤り、お尻にロケットが刺さった時のことが思い出され、ナワーブはうっと顔をしかめた。
おもむろに取り出されたトゲ付きの一輪車。右脚のペダルが筒状に作り変えられたそれを、大きな体で軽やかに乗りこなす。場外から次々と投げ込まれるクラブは、ジョーカーの手に吸い込まれるように収められていった。
鳴り止まないドラムロールに合わせて放り投げられ、ほんの少し触れるだけでまた空へと戻ってゆく。義足をタイヤにかませたジョーカーの体を一輪車が這うように滑り、ぴたりと止まった。指間部に全てのクラブを挟み込み、にたりと笑ったピエロが口を開く。
「楽しんでいけよ」


嫌がるピアソンがズルズルと幕の間から壇上に引きずりあげられる。逃さないよう腕をしっかりと捕まえて、シルクハットの男はそのまま強引に泥棒を木製のロッカーに詰めこんだ。
くぐもった声とともにがたがたと揺れる箱は、群青の布から取り出された鎖であっという間にがんじがらめにされている。
「さあ、ご覧あれ、このセルヴェ・ル・ロイのマジックショーを!」
爽やかな笑顔とともに松明が取り出され、無慈悲にも火が放たれる。助けなければ、と腰をあげたナワーブを、赤く細い手が静かに宥めた。
「でも、ピアソンさんが!」
「大丈夫だ。ほら、見てみるといい」
燃え広がらぬうちにと叩き消されたロッカーの傍ら、先程鎖を覆い隠してはらりと落ちた群青の布が、厚みをもって何やらもぞもぞと動いていた。
高らかに笑ったマジシャンが布からピアソンを引っ張りだす。
「燃えた箱からの見事な脱出だ!」
傭兵の青年は、ほ、と息をついてどかりと椅子へ戻った。
被っていたシルクハットを脱ぎ恭しく礼をして、セルヴェは思わしげに手を添える。
「さあ、それでは……次の案内人を呼ぶことにしよう。カート!」
白い帽の中から取り出された小さな冒険家が、にこやかに手を振りマイクに触れた。


ちょっと考えれば原理に思い当たることでも、こういくつも重ねられるとそれはまるで異世界のもののようで。
トマトの空き缶で作られた小さなゴンドラが、冒険家を乗せてゆっくりと往復している。つま先をぴんと張り、明らかに重心を無視して踊り回るマルガレータ。背後をよく見れば空気が水の中のように歪んでおり、ハスターはなるほど、と呟いた。踊る相手が見えない長身の男であるにも関わらず、彼女はその存在すら感じさせないほどに美しく舞い、地面を蹴る。
新体操のリボンのように柔らかかった鞭が突如重みを取り戻し、ぴしりと床を打った。檻から放たれたライオンは一目散に駆け出して、躊躇うことなく突き進む。黒いワープホールがライオンを飲み込み、勢いもそのまま上空に飛び出した。どこからともなく飛び出して空を舞う祭司が、目の前で展開させたホールでその頭を受け止める。地上に降りたライオンは主人に付き従って唸りをあげた。
「すごい、フィオナが飛んでる!」
「引き寄せる以外の芸当もできるのだな」
ローズピンクのフードのちょうどたるんだところから、鰐口のような金具が少しだけ覗いている。目立たぬよう壁の色に似せて塗装された鎖を目で追うと、視線に気のついた狩人が『しーっ』と人差し指を口に当てた。

ライオンを檻へと導いて、踊り子がくるりと礼をする。刹那強まった照明が視界を白く埋め尽くし、真っ暗な静寂が訪れた。幕切れにしてはあまりにもあっけない、とぽかんとしているナワーブを、耳慣れた小さな声が安心させる。
「おい、それもうちょっと左……」
「ちょっとウィル、そっちよく押さえて……!」
先程の静けさは何処へやら。がたがた、ぎいぎいという音が視界の奪われた会場内にあふれていく。
自分の声域では到底でないほどに低い笑い声がくつくつと聞こえて、ナワーブは隣にいるであろう神を見やった。
「ハスター、笑っているのか?」
「ああ。これは……これはとても可笑しい。愉快なものだ」
自分とこの青年のためだけの催し物。普段、死力を尽くして己に向かう小さな者たち。
「支度をしている彼奴等自身、心の底から楽しんでいるではないか」
ぱ、と照明が力強く灯った。壇上には、高所を中心に先程までなかった様々なステージと台が設置されている。
BANG! 信号銃で視線を集め、マーサが声を張り上げた。
「さあ、お待ちかね、スリル満点アクロバット・ショーの時間だ!」
声が消えきる前にバッと二回席から飛びたつ影。
「ウィル!?」
いつもの重い装甲を脱ぎ捨てている彼は、張られたロープを易々と捉えた。勢いもそのままぐるりと回ると、危なっかしくロープの上にまたがる。
「ナワーブ、タコのオッサン! 見てろよー!」
「おっさんではない」
「とうっ!」
思いきり体重をかけられたロープは大きく沈み、ウィリアムの体を跳ねあげた。大きく体を広げた彼の手を、空中ブランコに足をかけたマーサがしっかりと掴む。
「ごめんなマーサ、俺重いだろ」
「舐めるな。軍での訓練に比べればずっとずっと軽いさ」
そのまま反対側の二階席まで振られ、危なっかしくよじ登ったオフェンスは手をぶんぶんと振った。
再度ブランコで現れた空軍の手には、透き通るように真っ白な細い腕が握られている。最も高いところで放り出されたにも関わらず音もなくロープに足を置いた彼──謝必安は、フェンシングにも似た構えをとった。一歩一歩、指の腹でロープを捉えながら真っ黒な傘と共にゆったりと舞うその姿は、とても『ロープの上で』行われているものだとは思えないほどである。
ふわり、傘を開いて着地した彼は、ぱちぱちと手を叩く青年を見やりそっと頭を垂れた。
「ありがとうございます。……ところで、傭兵くん」
まさか呼ばれるとは思わなかったナワーブは、ボタンの目をぱちくりとさせた。
「おれ?」
「はい。オフェンスくんから、ご指名です」
「おうナワーブ、上がってこいよ!」
二階席の中央から声が降る。手すりに腰かけたウィリアムがナワーブを見下ろし、挑発的に笑った。
「でも、」
「どうした? 行かぬのか」
そっと背が優しく押された。その手つきは、ここで見ているから、と暗に告げる。
「……行ってくる」

「さあ、ここからはナワーブにも飛び入りでやってもらうぜ!」
グルカの力を見せてくれよ。そう言ってロープの端を掴んだウィリアムは悪戯っ子のように笑う。
「これを伝って反対側に渡る。軍人なら大体できるってカートが言っててさ、これにしたんだ」
「甘く見るなよ」
「さっきマーサにも言われたぞ!」
豪快に笑うウィリアムを置いて、ナワーブはするりと身を滑らせた。
ただ渡るだけ? そんなものは簡単すぎる。面白みもないし、先程まで素晴らしいパフォーマンスをたくさん見せてもらった後で。
ナワーブの身体能力は、戦争によって培われたものだ。使うたびいつも、ひとつふたつと思い出される辛い記憶が彼の心を蝕んだ。
それでも、その力をこんな楽しいことにも使えるというのなら。
それはとても素晴らしいことだ。
端を軽く蹴り、あえて足を放りだす。伸ばした腕はロープをしっかりと掴み、懸垂の要領で体を持ち上げた。蛇のように体を這わせたのち、再度蹴って掌のみを太い紐に触れさせる。
まるで鉄棒競技のように体を回転させる青年を、ハスターのいくつもの瞳が興味深く見つめている。知りたがりの彼にとって、初めて行うはずのロープパフォーマンスを軽々とこなす人間の姿というのはとても関心をひく事柄だった。
さあ、これでフィニッシュ、とひときわ大きな回転をしたナワーブが頂点で手を離す。両足はちゃんと手すりに届き、着地の姿勢も衝撃を和らげるもので。
──ただ、誰一人。設備の老朽化に思い至る者がいなかった。
ばきり。ナワーブの足元、木製の手すりが音をたてて崩れ落ちる。
咄嗟に伸ばした手はささくれた断面に傷つき、掴むことも叶わず。元々小柄なグルカである彼の、数倍はあるであろう高さから。
真っ逆さまに。
「ナワーブ!!」
ゆっくりと手を伸ばすウィリアムの叫びがとても遠く聞こえた。

────────ぼすり。
(痛く、ない?)
背ににゅるりとしたなにかを感じ、ナワーブはそっと目を開いた。痛みに備えて縮こまった体を恐る恐る伸ばす。
「これ、は、」
床から突き立つ3本ほどの大きな触手。こんなものを使役できるのは、彼を除いて他にはない。
「怪我はないか」
無音の会場を観客席からの低く響く声だけが伝ってゆく。はっと我に帰ったウィリアムが、その静寂の全てを壊しながら慌てて駆け寄った。
「っあ、ナワーブ! 無事でよかった……!!」
「大丈夫だ、ウィル。ハスターが助けてくれた」
「本当だ、おっさんありがとうな……!」
「だから我はおっさんではない」
会場を安堵と後悔が支配する。大事には至らずに済んだが、サーカスの音楽は鳴り止んだままで、『団員』達も戸惑ったままだ。
その空気を破ったのは、最も異形に近い姿をした神であった。
「この演目、我も是非に加わりたいのだが」
「……、ああ、もちろんだ!」
マーサは驚きに目を見開いたのち、すぐににっこりと微笑んだ。

たった二人の観客は壇上に。もう誰も観る者のいないサーカスは、されどとても輝いていた。
いつの間にやら他の演目の者たちも集まり、ステージの上はぎゅうぎゅうで。
ナワーブは傷つかなかった片手だけでロープをつかみ、足をかけて回ったのちに地面の触手へと飛び降りた。後ろからウィリアムとマーサが続き、わっと歓声が上がる。
結魂者が自慢の糸で織りあげた即席のトランポリンでぽよんぽよんと跳ねているエマを、料理人姿の復讐者が微笑ましく見つめていた。
「あ、カカシさんなの!」
ステージから真正面、観客席と観客席の間。装いをポスターの姿そのままに改めたジョーカーがゆっくりとこちらへ歩を進める。
「楽しんでくれたかよ、お二人さん」
帽子の影に隠れた顔の、ニタリと笑う口元。
「ああ。得難い経験だ」
「ありがとう、とても楽しかった」
あの日。会場の掃除のため月の河公園を訪れていたジョーカーは、たまたまサーカスを望む二人の話を聞いていた。ナタリーの大切にしていたライオンに肉を与えながら、このサーカスを待ち望む声に頭を悩ませた。
そして決意をした彼は、即席のサーカスを開くためにはどうすべきかと相談の声をかけていった。まずは、ハスターを除くハンター達に。そして、祭り事の好きそうなサバイバー達に。
フィオナとウィリアムが目を輝かせて手伝いたいと言ってくれた。ヴィオレッタとエミリーは衣装の提案を。ヘレナは準備の間中、杖でナワーブ達の位置をみてはばれないようにと教えてくれた。
「そうか、それなら……よかった」
そろそろサーカスもお開きだ。
「ご来場の皆様──────」
そのがらがらとした声は、普段のあの悪辣なものとはどこか違って。感謝の旨を伝えるそれは、誰もいない、しかし確かにあたたかい客席の心を満たしていくようであった。
「一夜限りのハロウィンナイト・サーカス、これにて────閉幕いたします」
薄暗い会場の、一際明るく輝いた壇上で、団員達は深々と頭を下げた。


ぱたり。
赤い手が万年筆に残ったインクを丁寧に拭き取り、そっとあるべき位置に戻す。月明かりに照らされた部屋の中、ハスターはほう、と息をついた。
この荘園では参加者は皆日記をつけねばならない。異形の彼自身もまた、その制約の対象である。
昼間の、賑やかで夢のような催しは。この静かな夜でも、余韻となって未だ彼の心をとらえたままであった。こうして記録として認めておけば、いつかまた読み返すことで記憶にずっと残しておける。
書き終えた日記を棚へと戻し、黄衣の王は、ふ、と笑った。



────頰のこけた探偵の男が、この不思議な夜の日記を見つけるのは、もっとずっと後のことだ。
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