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新手上路

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指定のフロアにワープする
トピ主
投稿時間: 2018-10-25 23:52:10 携帯電話から | 投稿者のコメントのみ表示 コメントボーナス |逆順にブラウズ |閲読モード
怪談の宴
ゲーム内の名前: rito-rindou
ゲーム内のID: 14256289
サーバー: アジア
最終更新は 2018-10-26 10:20、rito-rindou による編集です

 湯上りの体に心地よい秋の涼しさの中、エミリーは、深夜の館の廊下をゆったりとした足取りで歩いていた。今日も今日とてこの荘園からの脱出は叶わず、あの忌々しい椅子と共にこの館まで戻ってきたのはつい先程のこと。夜間であれば猟犬のようなハンターたちの目をも誤魔化せる……と本気で思ったわけではないが、好戦的な彼らの嗅覚は、夜闇の中でも健在であるらしかった。
 次こそは、と噛み締めるように胸の中で唱え、上階の自室を目指そうと、彼女は階段へ歩み寄る。と、階段のすぐ手前の部屋、そのドアが軋みながら微かに開き、その中からちらちらと揺れるオレンジ色の光が溢れ出てきた。

「……こんな時間に?」

 常であれば、酒盛りやカードゲームをしている連中さえも寝静まっている時間帯だ。怪訝に思いながらもエミリーが室内を覗き込むと、不安定に揺れる暖炉の光の中、予想外の人物が椅子に凭れている。

「……エマ?」
「っ! ……あ、あぁ……エミリーさんなの」

 椅子に身を預け、じっと炎を見つめていた人物──庭師のエマ・ウッズは、こちらの呼びかけに対して弾かれたように顔を上げ、珍しく取り繕うような笑みを浮かべてみせた。やや顔色が悪いが、肩口から覗く包帯に滲む赤は僅かであるし、今日の脱出計画の際に負った傷が悪化しているわけではないようだった。

「眠らないの? わかっていると思うけど、もうかなり遅い時間よ」
「眠れないの。……大丈夫、落ち着いたら部屋に戻るのよ」
「……でも、大丈夫な顔色じゃなさそうよ。今朝はハロウィンの飾りを見に教会に行くってあんなにはしゃいでいたのに。……どうしたの? 何かあった? それとももしかして、今日の傷が痛むのかしら」
「……傷は、平気なの。エミリーさんがちゃんと治療してくれたもの。……ねぇ、エミリーさんはもう教会の飾りを見に行ったの?」

 エミリーが傷と教会のことに触れると、エマは自身を守るように腕を組み、そう問い返してきた。日頃の天真爛漫さが鳴りを潜めた彼女の様子に漠然とした不安を覚えながらも、エミリーは促されるままに記憶を喚び起こす。

「教会の飾り……というと、あのカボチャやら妙な骨やら蝙蝠やら、ハロウィンらしい装飾のことでいいかしら?」
「うん、その通りなの! ちょっと怖いけど、カボチャは可愛いし、暗号機の上のおばけさんも素敵だったでしょう?」
「………………そう、ね」

 ハンターに追い回されなきゃいけない場所に装飾がなされるなんて、などという台詞は口が裂けても言えなかった。可愛い、素敵、と感じるより前に、からかわれているのでは、と憮然とした気持ちになってしまった身としては、エマのあまりにストレートな受け取り方に、毒気が抜けるような心地がしてしまう。

「それで、その教会がどうしたの?」
「あ、えっと。エミリーさんも知っての通り、私は今日、そのハロウィンの飾りを見て回っていたのね。猫を追いかけて、蝙蝠を驚かせて、暗号機からはみ出ている骨を引っ張って……って遊び回っていたら、いつのまにかふらっと、教会の中に入ってたの」
「……教会の中、か。確か、あそこの装飾は大きな棺桶かなにかだったかしら?」
「うん、そうなの。私も他の皆からはそう聞いてたんだけど。……私が行ったときには、教会の壁にずらーっと、絵が飾ってあったのよ。四方の壁に、立派な美術館の展覧会みたいにね」
「……絵、ねぇ」

 当然、エミリーが教会へ赴いた際に、そんなものを目にした記憶はない。加えて、日々誰かしらが脱出を試みているこの館の中でも、教会に絵が飾ってあった、なんて話を語る者はいなかったはずだ。

「……絵はね、どれも素敵な作品だったの。カボチャのランタンが笑ってる絵とか、黒猫が屋根の上で月を見上げている絵だとか、蝙蝠の目が輝いている絵だとか……ハンターさんの絵も、ここの皆の絵もあったわ。あっ、エミリーさんの絵も飾ってあったのよ?」
「……それは素敵ね」

 というより、不気味だ。

「でしょう? だからね、私は夢中で絵を見て回ったの。額縁に彫ってあるタイトルを確認しながら、端から順番に一枚一枚、隅々までじっくり眺めて、にらめっこして」
「そうして?」
「……そうして、いたらね。パッと、目の前に私の顔が出てきたの」
「あら、エマの絵もあったのね」
「ううん、違うの。……私も一瞬絵だと思ったけど、じっと見ていたら、その絵の私は瞬きをしてね? ……つまりね、その絵は、絵じゃなくて鏡だったのよ。絵の列の中に、何の前触れもなく鏡がかかってたの。私はそれをじっと見ていたってこと」
「……それは、驚くわね。規則性を無視した存在は気持ち悪いもの。……それが怖かったのね?」

 不気味な話ではあるが、悪く言えば『その程度』で眠れなくなってしまうのか。エミリーがやや肩透かしを食らったような心地になりながらエマの背中を撫でると、意外なことにエマは尚もかぶりを振って否定を示した。

「……私も、鏡だってわかっていたんだけど。でもね、それまでのルーチンってものがあるでしょう? だから私は、ほとんと無意識に目の前の鏡の枠を──絵で言う額縁の部分を──確認していたのよ。鏡は絵じゃないんだから、タイトルなんてあるはずないのに」
「でも、そう言うからにはあったのでしょう?」
「……うん」
「それで、タイトルは?」

 エミリーはなかなか進まない話に苛立ち、無意識のうちに詰問するような口調になっていた。しかし、彼女がそれに気づいたのは、エマがびくりと肩を震わせ、椅子の上で膝を抱えてからのことだった。答えを急いた自身を無言のうちに叱咤し、エマを宥めようと、エミリーが再びその背に手を伸ばした瞬間。

「……『ばらばら』」
「……え?」
「『ばらばら』って、彫ってあったの。……意味がわからなくて、一歩後ずさってね、そしたら──とっても間抜けな話なんだけど──そこで、ようやく気づいたの。ずっと教会の中に──一箇所に留まっていたから、私の周りに霧が出ていたってことに」

 霧。私たちの視界を遮り、生き物のように纏わりついてくる、あの冷たい白色。私たちにとっての明確な障害物である同時に、あるハンターがフィールドに存在していることの証左。

「それに気づいた瞬間、すぐ後ろから綺麗な鼻歌が聴こえて、肩の……ほら、エミリーさんが包帯を巻いてくれたここに、ひんやりするものが当たってて、つうっと撫でられてね」
「それで、怪我をしたのね」
「うん。直ぐに逃げたんだけど。……結局、捕まっちゃった」

 そこまで話すと、エマはため息をつくようにして小さく笑った。

「……ごめんなさい、それだけなの。エミリーさんが話を聞いてくれたから、もう眠れそうよ。ありがと、エミリーさん」
「……どういたしまして。……あの、エマ。……きっと、何か不幸な事故だったのよ。だってハンターの仕事は私たちを荘園に戻すことなんだから。そうでしょう?」

 絵の列の中にあった鏡とそのタイトルのことも、質の悪い冗談なのだと、そう言外に訴える。『茶目っ気』のある、かのハンターの遊戯が行き過ぎてしまっただけ。それだけのことなのだと。

「うん。……うん、そうよね」
「ええ。……だから、安心してお休みなさいな。怖ければ、今度からは私も教会について行ってあげる。他の皆だっているのだから、大丈夫よ」
「うん、うん、わかったわ。ありがとう。……おやすみ、エミリーさん」
「おやすみ、エマ」

 静かな声音で夜の挨拶を告げたエマは、ほとんど燻るだけになった暖炉の火を一瞥してゆっくりと部屋を後にした。その小さな背中を見送り、暖炉の灯が完全に消えるのを見届けると、エミリーは煙の残滓が薄く残る部屋の中を見回した。
 まるで、消えかけの霧のようだ。
 そんな考えが頭を過り、あまりの間の悪さについ顔を顰めて頭を振る。ひゅう、とどこかから迷い込んできたすきま風が背筋を撫で、急な寒気を感じた彼女はふるりと身震いをした。気づけば、すっかり湯冷めをしてしまったようだ。

「……私も、休まないと」

 自分自身に言い聞かせるように零した言葉は思いの外掠れていて、未だ煙の晴れない部屋に染み込むようにして消えていく。
 私の方が眠れなくなったかもしれない、と自嘲気味に笑って、エミリーは薄暗い部屋を後にした。

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