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最期の景色

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新手上路

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に発表する 2018-10-14 23:49:04 | すべてのコメントを表示 |閲読モード
怪談の宴
ゲーム内の名前: じゃっしー
ゲーム内のID: 6569878
サーバー: アジア
「キャァァァア!!」
目を覚ましたのは、絹を裂くような悲鳴が聞こえたからだった。
慌てて起きて部屋を出る。
悲鳴は食堂のあたりから聞こえた。
何が起きたのだろうか。ハンターはこの荘園にはいないはずなのに。
そう思いながら忍び足で食堂に近づく。
ドアの隙間から光が漏れているのをみて確信した。誰かがいる、と。
ドアの前に潜み息を整える。
心の中で3つ数え、勢いよく蹴破った。
そして目に入ったのは───。

「うわぁぁぁなになに!?だれなの!?」
「あれ、ナワーブくんなの〜。どうしたの?」
「お、おい!ドア壊すなよな!?」

ピアソンさん、エミリー先生、エマ、トレイシーというそこそこ珍しい組み合わせだった。
3人が突然の俺の登場にうろたえているのをよそに、先生は優雅に紅茶を口にする。

「悲鳴を聞いて駆け付けてくれたんでしょう?結構響いたから、誰か起こしちゃったかな、とは思っていたんだけど…」

「あ、あぁ…悲鳴が聞こえたから…何かあったのかと…」

しかし俺の考えていた事態とは程遠く、むしろどうしてそんな怖い顔してるの?という2人の視線が痛かった。

「特に何もなさそうだな…で、なんで悲鳴あげたんだよ、バカトレイシー」

「あ!ひっどい!バカって言う方がバカなんだよ!えっとね、ボクもエマも眠れなくってね、そしたらピアソンさんがヒャクモノガタリをやろうっていってくれてね!」

「私は反対したのよ…逆に眠れなくなっちゃうんじゃないかって…」

困ったように笑う先生に、先生は悪くないっすよ、といいながら席につく。
もう一度眠ってもいい時間ではあるが、先程の緊張感ですっかり目が冴えてしまった。
また眠くなるまで皆と雑談でもしよう。

「んで、さっきはどんな話してたんだよ」

「美智子にお皿数えたことある?って聞きたくなる話」

「絶対それはやめといた方がいいの…」

あと説明が雑すぎるだろ。
そうつっこむと、トレイシーは「怖すぎてあんまり覚えてない」と白状した。
…雰囲気で、怖がっていたんだな…。
すると横でピアソンさんがショックを受けていた。

「えぇ…俺すげぇ迫真の演技でやったのに…な、ウッズさん!なかなかだったでしょ!?」

「エマも怖すぎてよく覚えてないなの」

「ウッズさぁん!?」

見える……2人の間に、見えない壁が見える…。
若干気まずくなりかけた空気を壊したのはトレイシーだった。

「ナワーブ君の怖い話聞きたい!」

「は?俺?」

ぴょんぴょん跳ねるトレイシーはキラキラと期待の眼差しをこちらに向ける。
眩しい。

「俺、そういう語る系苦手なんだけど…」

「別に期待してないからいいよ!」

期待してないて。
話し下手な自覚があるとはいえ、こうはっきり言われるとなかなかクるものがあるな…。
なんて少しショックを受けていたらピアソンさんに肩を叩かれた。

「あの…大丈夫だろうけどよ、あんま生々しいのはやめとけよ?戦争の話とか…お前もきついだろうし」

そう小声で囁かれる。なんだかんだ、周りを見てるよなぁ、とか、上司がこんな感じで気を配る人だったらなぁ、と思いながら「大丈夫っす」と返した。
そもそも、軍にいた頃の怖い話とかそんなにない…。

「えーと、じゃあ軍の医療施設の…」

「あ、看護師系は散々エミリーから聞いたから大丈夫なの」

先生よ。反対したのにノリノリに語っちゃったんですか先生。
そういう意味を込めた視線を向けると、先生は「たのしくなっちゃって…」とえへ、と可愛らしく笑ってくれた。
いや騙されねぇからな!?

「じゃあ…看護師じゃない話な…。友達の話、でもいいのか?」

「お、友達から聞いた〜ってやつか。定番だけどいいねぇ」

先生から「雰囲気出すためにこれ持ってね」と蝋燭を渡され、先生こういうの好きなのかな…と思いながら俺は語り始めた。


友人…A、としようか。
ある日、Aは右目を傷つけた。…飛んできた石が当たったらしい。
それで角膜移植をする必要があった。
幸い、提供者はすぐに見つかり、手術もすぐに行われた。

手術は成功。Aは「まだ一緒に居られるよ」と喜んでいた。実際、Aはすぐに復帰し、今までと同じ通り仕事をこなしていった。

けど、異変はすぐに起きた。
Aの顔色がどんどん悪くなっていったのだ。
くまもどんどん濃くなって、みんなで「寝てないのか?」と心配した。
けれどAは「なんでもないよ」とただ笑うだけだった。
本人がこういうもんだから、みんなもそれ以上は踏み込めなかった。
今思えば、この時に無理にでも医者に見せるべきだったんだと思う。

Aは顔色がわるくなるどころか、どんどんやつれていって、始終あたりを警戒するようになった。

そして、ついに耐えきれなくなったのだろう。
Aはこういって泣き叫んだ。
「助けてくれ!殺される!」

これには皆驚いた。誰に狙われているんだ、とか何をしたんだと聞いても「殺さないでくれ、助けてくれ」の一点張り。
暫くはAを1人にしないよう、誰かしらが付き添ったり、職場から離れたところで仕事を行わせたりするようにした。

けど、Aの様子はどんどんおかしくなっていった。
そのうち、Aは何もない空間に向かって「やめろ!そのナイフをどけろよ!」と叫ぶようになった。
流石に、不気味に感じて、皆避けるようになっていった。「疲れてるのかもしれない」と勝手に判断した。中には「クスリでも決めてるんじゃないか」という奴もいた。
ともかく、もう、誰もまともに相手をしなくなった。

Aはどんどんおかしくなる一方だった。
それどころか、ナイフを振り回すようになったのだ。
「どうして俺を狙うんだ!」「俺に何するんだ!」そう叫びながら目に入る人を刺し殺そうとしてきたのだ。
当然、Aは男数人で押さえつけられた。
その間も「殺さないでくれ…刺さないでくれ…」とうわ言のように呟いていた。

次の日の朝一に、病院に連れて行こうということになった。
それまでは、少しでも目を離すとナイフを振り回そうと暴れるAを、申し訳ないと思いながらも縛って部屋に閉じ込めた。

明日、きっと良くなるから、そう願った。

でも、それは叶わなかった。

翌朝、Aは死体で見つかった。
ナイフが胸に深々と突き刺さっていた。
しっかり縛ったはずの縄は解けていた。

自殺、と判断された。

皆は悔やんだ。もっとちゃんと、話を聞いてやるべきだったと。
不気味だと思わず、きちんと接してやればよかったと。
皆がAを避けるようになったのは、不気味だと思うようになったのは、あの独り言をまともに取り合わなかったのには理由がある。

誰かがAに聞いたのだ。
一体誰が、お前を殺そうとしてるんだ、と。
するとAはこう答えた。

「俺が…、俺が、ナイフを突き刺そうとしてくるんだ…!!」


ところで、皆は「記憶転移」という言葉を知っているだろうか?
臓器移植をした際、ドナーの記憶の一部が受給者に移る現象のことだ。
臓器移植後、自分の趣味嗜好が変わった、と思う受給者は少なからずいるらしい。

眼─角膜はどうだろうか?
ドナーが最後に見た光景を眼に焼き付けていたら?
それが受給者の眼となった後も、見えてしまっていたら?

……まぁ、今回のAと、これが関係あるかはわからないけれど。
本当に自殺かもしれないし、もしかしたら誰かが楽にしたいと思って殺したのかもしれないし、自分で自分を殺したのかもしれない。
もう、今となっては真実を探る手段はないし、その必要もないと思う。


「今はただただ、Aが穏やかに眠り続けることを祈るだけだ──と。うーん、悪りぃ、うまくまとまんなかった」

一気に喋って…あと、慣れないことをして緊張していたのもあってか喉がカラカラになっていた。
それに気づいたのか、先生が水を渡してくれた。

「途中怖かったけど、最後あたりが難しかったの…」

「そうねぇ…途中まさか記憶転移とか出てくるとは私も思わなかったわ。私としては怖い、というよりはなかなか興味深い話だったわね」

今度また詳しく聞かせてね、と先生に微笑まれる。

「でも、目の治療をしたら自分を殺そうとする姿が見えちゃうなんて、おかしくなっても仕方ないと思うの。私だったら…自殺か、信じられる人にお願いしちゃうかもなの…」

想像してしまったのか、エマは青い顔をして首を振った。
先生が「移植した人全員そうなるわけじゃないから」となだめる。

「あぁ、トレイシーいつのまにか寝てらぁ」

そういってピアソンさんがトレイシーに上着をかぶせる。トレイシーは「もうたべれないよぉ…」と寝言をつぶやいた。
本当にそんな寝言呟く奴いるんだな…。

「さて、と…トレイシーも寝たし俺たちも寝よう」

「そうだな。あ、ウッズさん!もし怖かったら俺と…」

「エミリー、良かったら一緒に寝てもいい?」

「ウッズさぁん!?」

めげねぇなピアソンさん…。
そう思いながら4人と部屋を出る。
トレイシーを部屋のベッドに運んで、2人と別れたあと、ピアソンさんが恐る恐る口を開いた。

「なぁ…お前の友達ってことはさぁ…」

傭兵、だよな…?と視線をむけてくる。
俺は肩をすくめながら頷いた。
まぁ、この人には隠したって仕方ねぇし。

「職場も戦場だよ。トレイシーいたし、ちょっとマイルドに」

「いや全然話の中身マイルドじゃなかったけどな!?」

なんて会話をしているうちに自室に着く。
特にこのあと話が膨らむわけもなく、お互いおやすみといって部屋へと入った。

ベッドに腰をかけ、目を閉じる。
エマの言葉を思い出す。
あの言葉にほっとした自分がいた。

「俺は、間違ってなかったんだな」


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