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怪談の宴
ゲーム内の名前: |
✩mamiya✩ |
ゲーム内のID: |
2524890 |
サーバー: |
アジア |
最終更新は 2018-10-16 10:25、mamiya による編集です
Masquerade Halloween
マスカレードハロウィン
Trick or Treat!
ハロウィン祭りの賑わいに沢山の幼い声が響く、もう夜も更けているというのにその光景はとても長閑だ。
〝トリックオアトリート〟
このフレーズの意味を知っているだろうか。
“Treat me or I’ll trick you.”
(トリートミーオアアイルトリックユー)
「私をもてなせ。さもなくば、お前を惑わす」を省略した表現だ。
子供のお化け達を"おもてなし"するには甘いお菓子はピッタリだと言えるだろう。
「ハッピーハロウィン!」
お菓子と幸せな空気に包まれた幸せな夜でも、彼女は取り残されたかのように1人不幸だった。
その少女には親が居ない。楽しい催しに、共に連れていってくれる友人も居なかった。
その日は霧が出ていた。
普段なら寝ているであろう時間だったが、彼女はベッドを抜け出した。
部屋のカーテンを取り外し、お気に入りの庭の手入れ用の鋏を使って彼女はそこに2つ穴を開けた。そして身体全体を覆うように被ってみせる。
ーーーカーテンのお化けみたいなの!
素性を隠した自分ならこのハロウィンを楽しめる気がした。いや、素性を隠した自分だからこそハロウィンは楽しめる。
きっと誰も私の事を自分だと気付いたりはしない…!
普通の子達の仲間のように振る舞えるだろう。まるでMasquerade(仮面舞踏会)だ。今日のこの夜はきっと忘れられない夜になる。
期待に胸を踊らせ、そのまま踊るような足取りで通りに飛び出した。
外は寒く、夜霧が深かった。
しかしそんな事は関係無い。カーテンのお化けに扮した少女は特別な夜を楽しめるという高揚感で寒さは全く感じなかった。
ふと、通りの影に背の高い人影がーーー
いや、人では無い。左手に大きな鉤爪を持つそれは賑やかな通りに出るわけでもなくただそこに佇んでいた。
少女は身を竦めた。瞬間的な恐怖、殺されるかもしれないと直感が告げていた。
鉤爪の物体は静かに彼女の側まで近づいてくるとーーー
「Hello.little lady(こんにちは、お嬢さん)」
ーーー彼女の予想と反して紳士的に挨拶をしてきたのだった。
お嬢さん、だなんて初めて言われた…!
仮面をつけた紳士の思わぬ歓迎に少女の心は恐怖を忘れて舞い上がった。思えばこうやって、彼女自身に目を向けて挨拶されたのはいつ頃ぶりなのだろうか。
「私はお嬢さんじゃないの!お化けなのよ!Trick or Treat!」
それだけでカーテンのお化けにとって特別な夜の最初の思い出作りの相手を彼にするには理由は充分だった。彼女はコミュニケーションに久しく飢えていたのだ。
「トリックオアトリート!
(もてなして!さもなくば惑わすわ)」
ワクワクしていた。表情の読めない紳士は一体どんなお菓子をくれるのだろうか。
紳士は深く低い声で、呻くように笑うと
「私は今日は充分(Trick)惑わされている。この出会い以上の驚きは必要ないだろう」
と言うのだった。
「それじゃあ代わりに何か"(Treat)おもてなし"をしてくれるの?」
「もちろん」
「私に何をくれるの?」
「君にとっておきの"おもてなし"をしてあげよう。君がこのまま美しく成長し、また霧の夜に出会うことが出来たその時には君に今までのどの女性よりも素晴らしい"おもてなし"をすることを約束しよう」
「本当に?!ありがとう!約束してほしいの!」
幼い少女にとってその"おもてなし"が何を示す物なのか解らなかったが、それはとても良い事のように思えたし、誰かと「約束」を交わすことは特別な事のように感じたのだった。
「ところで、お嬢さん、私からもTrick or Treatだ。選択を間違えない方が良い」
「でも、私は何も持っていないの…!」
少女は困ってしまった。経験の少ないカーテンのお化けは自分がトリックオアトリートされる事は想定していなかったのだ。
すると、紳士はまた先程と同じ様に笑うと鉤爪のついていない方の指で
ーーー通りの角を覗いてごらん
と指し示してまた笑うのだった。
少女はこの不思議な雰囲気を纏った紳士がどのような"(Trick)惑わし"をして来るのかある意味期待を高まらせていた。
軽く走る様にして角を覗くとそこに広がっていた〝惑わし〟の光景に一瞬で目を奪われた。
ーーーそう、今まで見たこともないような赤いドレスを纏った女が居た。
ーーーいや、今まで見たこともないような赤いドレスの女が床に伏していた。
ーーー女が血塗れで床に、
ーーー血塗れの女が、血塗れで通りの床に倒れ伏していた…!
自分の口から叫び声が出ている事に少女が気がついた時、またあの呻くような低い笑い声が聞こえた。
「小さいお嬢さん、貴方の未来にとっておきの"(treat)おもてなし"を」
囁きに振り返った時には不思議な紳士は霧の中に消えていた。少女はこれ以上、倒れた女に近づきたいとは全く思わなかった。一目散に部屋に帰りカーテンを元に戻しベッドに入った。
ーーーこれはハロウィンの夢だ
そう思い込みたい少女を、彼女が開けたカーテンの2つの穴から月の光が覗いている。
まるで彼女をこの未来と現実から逃がさない、とカーテンのお化けが見張っているかのようだった。
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