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厄災の始まり(断ズレ修正版)

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新手上路

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に発表する 2018-10-16 21:25:51 携帯電話から | すべてのコメントを表示 |閲読モード
怪談の宴
ゲーム内の名前: Uronta。
ゲーム内のID: 13038408
サーバー: アジア
私は《いなくなった娘を探して欲しい》という依頼を受けてここに来た。

何故かって?  この荘園が依頼主の娘の、最後の目撃情報のあった場所だからだよ。

特に理由無く、こんな物騒な場所に足を運ぶ物好きなんてそういるもんじゃない。

私のような過去を置き去りにして探偵業を始めた、落ちこぼれを除いて──。



建物の正門に辿り着き上空を見上げるも、霧が濃くその全容は見えない。

「これを一人で押し開けるのは骨が折れるな……本当に」

自分の身長を遥かに超える鉄の扉を見つめ一歩前に出た──その瞬間。

扉の周辺から複雑な機械音が鳴り響き扉が軋み始めた。

両開きのそれは闇に呑まれ、それと同時に溢れ出てきた冷たい風が肌を撫でる。

「……入るしかない様だな」

探偵はそれ以上考えること無く、足早に現場へと踏み込んだ。


────────────────


何者かが板を割る……カチカチと機械音が鳴り鉄のゲートに光が灯る。

《迫り来る恐怖》を振り切って男は必死で走った。

気がつくと背後に《恐怖》の存在は無く、男は喘ぎながら崩れるように地面に倒れ込んだ。

次第に呼吸は落ち着き、そのまま深い眠りに落ちていった。


──────────────────


あれからどれだけ時間が経ったのだろう。
腕時計は荘園に踏み込んだ時から動いておらず、陽の光は濃霧に遮られ時間感覚は鈍っていく一方だ。

「この先の部屋で最後だ……」

一階の入口付近に建物の構造図が高級感溢れる額縁に収められていた。
それを丸暗記し記憶を頼りに全ての部屋を潰して歩いていた。

だが、どの部屋も似たような作りで置いてあるものだけ違う程度だった。

思ったような収穫もなく、この部屋も今までと同じようなら骨折り損である。

僅かな期待を込めて力ずよく光沢のある木製のドアを開ける。

「これは……」

扉の先は無機質な壁に箱が置いてあるだけの部屋ではなく……生活感のある部屋だった。

「本棚にランタン……ロウソクにピアノまで……」

コツコツと革靴の底が鳴る。

「私以外にはいな……」

いない、そう言いかけた瞬間。

背後からバサッと大量の紙が落下するような音がした。

探偵は慌てて後ろを見る──そこには思わぬ来客がいた。

「鳥……?」

割れた窓からココに迷い込んでしまったのだろうか。しかし、よく見ると違和感があった。

「お洒落な鳥もいたものだな」

黒い羽根が三本生えた仮面を着こなす小さな鳥──そいつはピアノの所まで飛んでいくとそれ以降動くことは無かった。

「少し疲れたな……休憩がてら本でも拝借して読んでみるか」

探偵は暖炉の横にある本棚から一冊の本を手に取り、革製の椅子に腰掛けた。


その本は日記になっていた。それは、この荘園で起きた猟奇的な事件の事についてだった。

「なんだ……これは……」

突如、奇妙な既視感に襲われ両手が震え始めた。

「…………!」

不意に視界に入った左手の傷……それを見た時、内側から黒い何かが溢れ出て来たように感じた。
頭の中に様々な、身に覚えのない映像が次から次へと鮮明に映し出される。
自分から逃げるように、泣きながら走る女性。大男が銃を持った女性に何かを振りかぶる様子、こちらに向き直った女性の瞳から光が消え涙が頬を伝うその瞬間まで。

「はぁ……はぁ……!」

頭を左右に振り思考をクリアにする。

「なんなんだ……俺は一体。あの日記……不可解な事件、非人道的だ。もしかすると、依頼主の娘は巻き込まれて……」

悪い方向にばかり考えてしまうのは探偵としてどうなのか、自分の性分に疑問を抱きつつ椅子から立ち上がる。

「一応……建物の中だけじゃなく外も探索しておくか。手がかりが残されてるかもしれない」

探偵は逃げるように部屋から出ていった。



建物から出ると何故か来た時と景色が違っていた。

正面には見覚えのない工場のようなもの。右手側にはタイプライターの様な機械、そこから黄色に発光するアンテナが生えている。

「なんだ……ここは」

辺りを見回すと、今自分が出てきた建物は忽然と姿を消しそこら中に立てかけられた板、壊れた窓枠。そして地面に設置された赤い箱。

「なんでこんな所に工具箱が……」

興味本位で重い蓋を開け中を見ると、大量のネジや絡まった針金で埋まっており底が見えない有様だった。

「これは酷いな……ん、なんだ?」

僅かに見えた金色の筒のようなもの、それは何かを反射し運良く探偵の目を眩ました。絡まった針金をほどき、鉄ネジを箱の周りにぶちまける。すると、底から銃の形をした何かが現れた。

「銃……いや、違う。 信号銃か……?  一体なんのために」

──用途は分からないが、何かに使えるかもしれない。備えあれば憂いなしってやつだ。

探偵は右のポッケに無造作に銃を突っ込み、光るアンテナ目掛けて進んだ。

タイプライターの様な機械には大量の暗号が書かれており、機械が置かれている土台部分にはロックのかかったレバーと10桁のダイヤル式ロック。

少し動かした感じだけだが、恐らく機械を通すことで紙に書かれた文字が読める仕組みになっていて、最終的に現れる10桁の数字を機械横のダイヤルに入力しレバーを下げることで何かが起きるのだろう。

「最後までやってみるか……」

探偵は周りを気にすること無くカチカチとボタンを押し続けた──。


──ピー……ガシャッ。

暗号の解読終了を知らせる機械音。それと同時にアンテナに淡い光が灯りボタンを押すことは出来なくなる。

「解読終了か……目立つな。こんな音と光が……わざとらしい。 まるで何かに知らせる意図が含まれてそうだ……」

一台の暗号機を解読し終え、ようやく周囲の警戒を始めた──だが。

──シュゥ……シュォー。

防毒マスクから漏れる息。まるでそれを連想させるかのような吐息が聞こえる。

「なんの……音だ……?」

不気味な音、不安感に押しつぶされそうになる。次第に心拍数が上がり呼吸が荒くなる。

「早く離れるか……」

正面にあった工場の窓枠を乗り越えてそのまま反対側へと走っていった。


──ピー……ガシャッ。

「これで5個目……」
あと何個あるのか……いつまで続くのか。何度この不安感に襲われたことか。

「また……ダメなのか」
そう、諦めかけた──刹那。

戦争のサイレンのような音が自分の後方と、前方から辺り一体を包み込むように大音量で鳴った。

「なんだ……!?」

突然の出来事で状況の理解が追いつかないまま後ろを見る。

そこには大きな鉄製の扉と暗証番号を入力する装置が壁に埋め込まれていた。

「なんなんだ……! 何を打ち込めば……」

焦燥に駆られ、心拍数が上昇していく。

「まずいぞ……やはり、何かがいる……。さっきのサイレンでここに集まってくる事が想定済みなら……」

思考をフル回転させて入力装置をみつめる。

「そうか……! 分かったぞ!」

弾かれたように0から9の番号を押していく。

「くそ……最初からやり直し……焦るな。大丈夫だ……まだ間に合う」

一度でも入力を間違うと自動でリセットされてしまうようだった。もう数十秒かけて、一度も間違うことなく入力を終えると鉄の扉がゆっくりと横に開き始め、暗号解読成功を知らせてくれる。

「この先には何が……」
一息ついてからふと工場の方を見た。

──そこに居たのは不気味な形の鈍器を握りしめた大男。

「なんなんだ……あれは」

頭は僅かに傾き、全身が不自然に膨張し、身体の至る所が不自然に痙攣している。そして着実に、確実にこちらへと近づいてきている。

だが、扉はまだ大人の男性が通れるほど開いておらずただ開くのを待つしかない。

「おいおい……急いでくれ!」
あと少し……もう数十センチ開けばなんとか通れるはず。そして──通れる! と肩を隙間にねじ込んだ時だった。いつの間にか迫っていた大男は鈍器を振り上げ扉から僅かにはみ出ている左肩を叩きつけてきた。

「……ッ!」

とてつもない衝撃と共に激痛が全身を駆け巡る。 左肩の骨が粉砕され、血が飛び散る。その直後、スルッと扉の奥に体が入っていった。力を奥にかけ続けていたせいで躓き体勢を崩す。

大男はそれを見ると、武器を置いて両手で扉をこじ開け始めた。

「嘘……だろ。そんな事ありかよ……」

湿り気を帯びた草むらに尻をついて大男を見上げる。絶望と恐怖が一気に押し寄せてくる。

そして扉がシステムの設定よりも早く、強引に開かれた。大男は鈍器を持ち、ゆっくりと迫ってくる。

「………………」

──シュゥ……!!

大男が鈍器を振りかざした──刹那。

爆発音と同時に赤い煙が探偵の前に立ち上る。

衝撃に仰け反り悶える大男の事を見向きもせず、探偵は霧に消えた。


「はぁ……はぁ……」

途中から何があったのか、記憶が曖昧でよく覚えていない。あれからどれだけ走ったのか、どこに向かっているのか……左肩の熱は今も残っている。

──頭がぼーっとする。疲れたな……ちょっと休憩でも……。

探偵は濃い霧の中で崩れるよう眠りについた。






「ここが最後の目撃情報があった場所……」

──しかし、依頼を頼んだ探偵が前金だけ持って失踪……か。娘さんを必死で探してる人の気持ちを踏みにじって……許されない。

そう思う程に増していく怒りを抑えるためにカバンから《お守り》を取り出す。
亡き母親から貰ったお守りの様な物、この国には無い変わった形の扇子。よく見る煌びやかな物ではなくて……落ち着いた、無駄の無い美しい扇子。


あたしが絶対に見つけて連れていきますから──。



強い決意を胸に、その女探偵は荘園に足を踏み入れた。
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に発表する 2024-3-30 18:05:46 | すべてのコメントを表示
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